[裏という現実を味わう]

”裏を見せ、表を見せて散る紅葉” この句は、良寛さんが晩年に交流の深か  った貞心尼(ていしんに)という尼僧さんに向けられたものです。自分の心の中の弱い部分も含めて、全てを見せてきた貞心尼に対して、何か肩の荷を下ろすような、そんな気持ちをもって作られたものなのでしょう。ほのぼのとしたやさしさと、そこはかとない悲しさの、良寛さんの深い洞察力がよく表れているように感じます。

 今年の6月3日に、第62回産経児童出版文化賞の授賞式が行われ、大賞に岩瀬成子さんの「きみは知らないほうがいい」が選ばれました。「元気で明るく素直なよい子という一般的な子ども像への違和感」がテーマの作品で、そうした「よい子イメージ」で子どもを捉えていたら、現実の子どもが見えなくなるよ、という警鐘を私たちに投げかけています。

さくらそう保育園のお子さんたちは、表の「よい子」の表情をたくさん見せてくれますが、それだけでなく、裏の「現実の」顔もたくさん見せてくれています。園児12人それぞれ個性鮮やかに、実に人間らしい愛すべき裏を持っています。

相手を傷つけたり、自分を傷つけたり、大怒りしたり、大泣きして、制御不能になるお子さん、
「迷惑しているからやめて欲しい」という思いに、気づかないお子さん、 遊びが見つからなかったり、見つかっても長続きしないお子さん、etc・・・

私たち保育者は、現実の子どもの姿の中で保育をしています。現実の子どもを、岩瀬さんの言う「よい子」に変えたいと努力しても思い通りには絶対なりません。現実を直視すべきであり認めるべきと思います。どの子にも裏という現実があるんだ、それでいいんだ、それこそいいんだ!と考えるようになることです。

真に優しい人間になるためには、実は裏という現実を知り、味わい、そこに留まっていてはいけないと感じ、卒業することが必要なのではと思います。それも人生のなるべく若い時に。だから子どもは今、前向きに進んで問題を起こすのです。・・・こう考えると、子育てに奥深さがでてきます。

みんな悩んでいるのです。その悩みはあなた一人だけではないのです。悩みを共有できたらと願います。そして、現実の子どもの姿も見つめて、受け入れることができたらと願っています。
もみじ

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