「運命」という曲を知っていますか? ベートーヴェンの交響曲で、とてもよく知られた曲です。
ところで、お弟子さんが「『ダダダダーン』という音にはどういう意味があるのですか?」とベートーヴェンに質問したところ、「このようにして運命は扉を叩くのだ」と答えたということが伝えられています。「ダダダダーン」というのは、扉を叩く音なんですね。
では、この曲の楽譜をご覧ください。「ダダダダーン」の前に八部休符という休符が入っているんですよ。だから、あの「ダダダダーン」は本当は、「ン、ダダダダーン」です。なぜ最初から扉を「ダダダダーン」と叩く音から入らないで、まず「ン」が入るのでしょうか?それは、扉を叩く前の、コブシを振り上げる動作だからといわれています。コブシを振り上げる時に音はしないので休符なんですね。ベートーヴェン、天才!
私は、このコブシを振り上げる時の休符というものと保育というものとは、同じようなところがあるように思います。保育園の生活は、世間から見れば地味で目立たないものかもしれません。正に休符のように見えてしまいます。でも、とても大切な時なんですね。基本的な生活の習慣を身につけること、好きな遊びを見つけて遊びこむこと、友達に思いやりをもつこと、これらは保育園の得意分野ともいえます。
一方、どんなに困難な時でも、愛されている喜びを忘れないこと、これについては、実は保育園では力不足なんです。ご家族の、特にお母さまとの愛着が、最高のエネルギーとなるんですよ。保育園とご家族と、それぞれの役割があることを確認し合いたいと思います。
そして、将来社会に出る時には、その人にふさわしいコブシを振り上げ、「ダダダダーン」と力強く扉を叩いて社会に旅立って欲しいと願っています。